スーパーでいくらを見るたびに、私は祖母の顔を思い出します。祖母、いや、ばあちゃんが作るいくらのしょうゆ漬けは、かなりうまいです。
ばあちゃんの作る料理は全てにおいて味が濃く、みそ汁に関しては白いご飯がないとやっていられないくらい塩っぱいのです。いくらのしょうゆ漬けも例に漏れず、少々濃いめの味付け設定ですが、こちらはそもそもご飯にかけるというのが前提であるから問題はないはずです。
ばあちゃんは私たちが家に帰るときに、いくらのしょうゆ漬けを小さな瓶に入れて持たせてくれますが、次の日からの我が家の食卓では「小さな戦い」が生まれます。
いくらの取り合いです。
いくらが高級品だというのは、我が家でも共通の認識として捉えられており、少しずつ食べようというのが暗黙の了解となっていました。もし、ごはんの上に大量にいくらが盛られていようものなら、家族全員からのブーイングが発生します。スプーン一杯、これが絶対のルールです。
そんな食卓の風景に思いを馳せ、スーパーで筋子を手に取った私。「あのころのルールから解き放たれ、好きなだけいくらを食したい」という願望がふつふつと湧き出てきました。たくさん食べても、誰にも文句を言われない、自由のいくら。
ということで買ってきたのが、こちらです。
人生初のいくらのしょうゆ漬け作り、始まりです。
まず、筋子をいくら状態(つぶつぶの状態)にしなければなりません。温かい塩水に筋子を入れ、手でもみほぐします。難しいと思いきや、意外と簡単に分離してくれました。
ざるにこして、よけいな筋や潰してしまったいくらの皮を洗い流します。このときは真水で、ただし、もたもたしていると固くなってしまうようなので、手早くやりました。
ここで漬け汁へ。本来であれば酒やみりん、醤油などを配合しますが、今回は既製のタレを使用しました。もうこの時点でかなり美味しそうです。
あとはラップをして、冷蔵庫で一晩寝かせます。
翌朝、いくらに胸を踊らせながら食卓に向かうと、そこには・・・
妹がいくらを大量にご飯にのせている光景が。
平和と自由を求めて作ったいくらのしょうゆ漬け、目の前で無惨にも妹の口へと吸い込まれてゆきます。しかし、ここで怒りをあらわにするほど幼稚ではない私、静かに・・
「スプーン一杯だからな」
これだけは絶対のルールです。